認知症とは

「認知症=もの忘れ」というイメージが強いですが、もの忘れは認知症に特徴的な症状(中核症状)の一つに過ぎません。もの忘れ(記憶障害)の他にも、それまでできていた料理が難しくなったり(実行機能障害)、人の見分けが付かなくなり、家族を知らない人と勘違いしてしまったり(見当識障害)します。そして、認知症が進行すると、着替えや排泄などの日常生活に不可欠な行動が一人でできず、家族など周囲の手助けが必要になります。また、徘徊や暴言・暴力、幻覚、妄想など、認知症が原因で起こる困った行動のことを行動・心理症状(BPSD)と呼びます。BPSDは認知症の人すべてに起こるわけではなく、接し方や環境整備などで軽減・解消できますが、上記の中核症状以上に、家族や介護者に心配や苦労をかけることもしばしばです。
認知症にはいくつかの種類があります。最も患者数が多いのはアルツハイマー型認知症で、その他に次に血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが知られています。認知症の種類により、症状の出方は少し違ってきますが、基本的にはどれも認知機能症状(中核症状)や行動・心理症状(BPSD)によって、自立した生活が送りにくくなります。

診断方法

認知症の診断は、問診、血液検査、頭部画像検査が中心となり、これらの結果から総合的に診断することになります。特に、問診により症状の性質や経過、日常生活の妨げとなっている症状を明らかにすることは診断の大きな手がかりになります。また、MMSEやHDS⁻Rと呼ばれる質問形式の検査も行いますが、どの項目で減点がみられるかが認知症の種類を類推するのに有用です。内服している薬や既往症(持病)の確認も重要です。薬の副作用や持病の一症状として認知機能が低下している可能性もあるからです。

血液検査では、腎臓や肝臓の働きをチェックしたり、電解質の異常がないか、甲状腺の働きが弱くなっていないか、ビタミン不足がないか等を確認します。なぜなら、これらの異常で、認知症に似たような症状がでることがあるからです。

頭部画像検査では、自覚していない脳梗塞のあとがないか(血管性認知症の原因になります)、海馬の萎縮がないか(アルツハイマー型認知症でしばしば萎縮がみられる場所です)等を確認します。その他にも「治る認知症」と呼ばれる慢性硬膜下血腫や特発性正常圧水頭症などの病気がないかをチェックします。これらの病気は適切な治療(手術)により、症状が劇的に改善することがあります。

治療方法

認知症と診断された場合には、症状に応じて薬物療法と非薬物療法を検討します。現在の医学では、認知症を「治す」薬はありませんが、症状の進行を遅らせる薬が何種類かあります。症状の進行を遅らせることで、ご本人の健康寿命の延伸をはかり、家族や介護者の負担を減らすことが可能です。非薬物療法とは、薬物を使用せずに、例えば運動や音楽、脳トレなどにより、脳に刺激を与えることで認知症の進行を遅らせます。また、認知症の方に対する周囲の対応の仕方も、精神的な安定を図る上で非常に重要です。特に、行動・心理症状(BPSD)は、周囲の適切な対応により軽減することが期待できます。

認知症の前段階で、生活に支障はないものの、記憶力や注意力などの低下がみられる状態は、軽度認知障害(MCI)と呼ばれます。認知症の状態まで進んでしまうと、その後症状の進行を止めることは現在の医学では難しいのですが、MCIであれば健常な状態に戻る方も一定数みられます。この段階で認知症に進まないようにするための対策をしっかり行うことが大切です。

 

 

 

 

 

 

 

担当:脳神経内科 部長 田中 淳

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佐賀県佐賀市大財町1丁目6-60
医療法人 同愛会 サンテ溝上病院
0952-24-5251
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